愛しい母ちゃん
老人ホームの二階に上がり
左に曲がると入所者のホールがある。
食事の時間。それぞれ所定の位置についている。
私は遠くに見覚えのある丸い頭を見つけると安どする。
「車椅子に乗っている、熱はないようだ」「元気」。
母ちゃんは一年前に脳梗塞になり、以来、この施設にお世話になっている。
人が老いていくのはしかたがない。いつ
か、死ぬのも決まっている。
でも私は受け入れできないでいる。
母ちゃんは85歳、長生きした。
でも私はまだ生きていて欲しい。
手足は思うように動けず、認知も日々すすんでいる。
脳梗塞を発症する前に比べると別人のように痩せた。
口だけは達者で歯のない口でよく喋る。
とんちのきいたことを言うと私は笑う。
母ちゃんはうけたと思い、同じことを繰り返し喋る。
母ちゃん、明日また来るよ、インゲン持って。
しっぽとるのは母ちゃんのほうが根気いいからね。