松茸、焼いて食べたい
家の山には松茸がでる。
松茸は土中から出ているが
枯れ葉が覆いかぶさっているため、素人では絶対に探せない。
松茸は味噌漬けにしたり、焼いて醤油をたらして食べると
美味い。
山が脆弱になった昨今、松茸の需要はあがり、高値で取引される。
昔は山の持ち主が盗られないよう爺、婆に一晩中見張らせていた
ときいている。
松茸は一定の場所にはえる。その場所は山を継いでいく人に
持ち主は教える。
母ちゃんは山が好きだった。
春はわらびをとり、秋は松茸とりだ。
山は険しく、岩場もあり、雑草が生い茂り、沼地で足をとられる
こともある。
何に出くわすかわからないし、山は方向感覚を鈍らせる。
年老いてからは、老人車がなければ歩けなくなった母ちゃんだけど
車で山まで送ると、サルのように登って行った。
松茸があると満面の笑みを浮かべ、車で待機中の私に見せる。
帰宅すると、計量器ではかり、良い物だと市場にだす。
老人は現金があると元気だ。
松茸は貴重品ではあるが、栄養素が高いわけでもなく、満腹になることも
なく、香りを楽しむだけのものだ。
しめじにインスタントの松茸の汁を混ぜて、松茸ご飯だよって
言っても、若い人なら「そうなんだ」って、きっとばれないと思う。
この季節、松茸は贈り物として重宝だ。
姉たちが明日、松茸とりに来るらしい。
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一週間前から胆嚢炎のため絶食している母ちゃん。
目を閉じて寝ているので、ベッドサイドの椅子に腰かけ携帯をいじって
いた。
しばらくすると目を開ける。
「誰かわかる?」
「〇〇ちゃん」小さな声で返事する。
「明日、〇〇(姉たちの名前)が松茸とりに来るって」
「食べたいな・・焼いて食べたいな」
「腹、痛い?」
「ちょっと・・」左腹に手を当てる。
(なんで左なんやろ?)
「〇〇(姉の名前)に松茸の場所、教えといて良かった」
小さい声で母ちゃんは話す。
きっと体重がまた減ったと思う。
絶食すると嚥下運動が低下する。
施設の医師が声かけてきた。
「今はねぇ熱がさがってきたので、そろそろ食事開始しようかと
思います。」
「よろしくお願いします」と礼を言う。
人はなにかの病名を付けられて、治療を受けながらも弱っていき
死ぬ。
90歳でも元気な老人もいるけど、母ちゃんもそれなりに長生きした。
幸せなほうだったか、不幸だったか計れない。
幸せだったと思えるように、私、面会に来てお喋りするね。