メタボンの行きあたりばったり

昨年定年退職しましたメタボンです。毒を吐きます。

紫のキャリーバック<誕生編>吉田輝星君

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1月12日

 

まゆみちゃんは市内にある総合病院の産科病棟で

夜明けをむかえた

 

昨晩から始まった陣痛で一睡もできなかった

 

出産予定日よりちょっと早い

赤ちゃんはお母さんに早く会いたいようだ

 

ドアを叩く音がする

「おはよ、どうかな?、陣痛の間隔」

ベテラン助産師の江田さんだ

 

妊婦健診の時からずっと江田さんが

まゆみちゃんの担当だ

 

4人の子持ちの江田さんは実体験を加えて

指導してくれるので、説明がわかりやすい

 

出産時の呼吸方法も会得した

赤ちゃんの抱き方やおっぱいの吸わせ方

オムツの当て方など人形を使って

教えて貰った

 

 

妊娠6ヶ月のエコー検査で、産科医の仲居先生が言った

「チンチンがついとる、男の子だね

わしの診たては当たるよ、打率7割じゃ」

 

帰ってマー君に報告すると

飛び上がって喜んでいた

 

マー君は野球が好きだから、きっと息子と

キャッチボールしたいんだね

そうまゆみちゃんは思った

 

まゆみちゃんは男の子でも女の子でも

どちらでもかまわない

無事に生まれて、健康であればそれで良い

 

ベッドサイドの椅子に座り、うたた寝していた

マー君が目を開ける

 

江田さんを見て、慌てて立ち上がる

「えっ、江田さん、はよござーす」

 

「おはようございます。初産は生まれるまでに

時間がかかるの、体力勝負よ」

「そっすか、まゆみちゃんなんか食うか?」

 

陣痛間隔が3分おきになったら分娩室に移動すると

言って江田助産師は出て行った

 

マー君、おにぎり食べたいな

それとチョコバナナも」

 

マー君とまゆみちゃんの両親がやって来て

個室はにぎやかになった

 

陣痛が3分間隔になってきたのは午後一時過ぎ

 

マー君は腰が痛いとまゆみちゃんが言うので

ここ?、こんくらい?と聞きながら

腰をさすっていた

 

母親たちは呑気に世間話をしている

親父たちは部屋を出たり入ったり落ち着かない

 

江田助産師さんに付き添われて

まゆみちゃんとまゆみちゃんのお母さんが

分娩室に入って行く

 

「俺は?、俺はどうしたらいい、まゆみちゃん」

「生まれたらビデオまわして

じゃ、行ってくるね」

 

マー君はドキドキした

これから起こるドラマチックな出来事に

立っているだけで精一杯だった

 

「無事に生まれてくれ、頼む!」

心の中で祈った

 

分娩室から時々、まゆみちゃんの声がもれてくる

 

「頑張れ、まゆみちゃん!」

マー君はまゆみちゃんが愛しくてたまらない

 

男は役立たずだ

 

助産師の江田さんがドアから顔をだす

「もうすぐですよ、今、頭が見えてきたところ

お父さん、ビデオ持って中に入って来て」

 

お父さんと呼ばれ、マー君は止まってしまった

 

分娩台のまゆみちゃんの額は汗で濡れている

お母さんがまゆみちゃんの耳元でささやく

「大丈夫、大丈夫、もう少しだよ」

 

江田助産師が声かける

「いい、次の痛みがきたらいきむんだよ」

 

うなづくまゆみちゃん

 

陣痛の波が押し寄せる

まゆみちゃんがいきむ

 

するすると回転しながら出てくる赤ちゃんの頭

 

それに手を合わせて小さな体を受け止める江田さん

 

赤ちゃんは抱き抱えられながら

空中に上がる

 

おぎゃと声を発する

 

慌ててビデオ撮影するマー君

 

赤ちゃんの泣き声が分娩室に響きわたる

「おめでとうございます

男の子です」

 

江田さんがそう言って赤ちゃんをまゆみちゃんの

胸に置く

 

「初めまして、こんにちわ

お母さんだよ」

 

赤ちゃんはまゆみちゃんに抱かれると

泣くのをやめた

 

小さい指がまゆみちゃんの顔に当たる

 

産科医仲居先生がまゆみちゃんと赤ちゃんをつなぐ

へその緒をはさみで切る

 

シャキーン

 

 

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