メタボンの行きあたりばったり

昨年定年退職しましたメタボンです。毒を吐きます。

人それぞれの終末、鉄道マン

私の住むここらでは電車のことを「汽車」と言う

 

愛犬の散歩コースに線路があるもんで

汽車が来ないか首を振りながらまたいでいる

モタモタしていると向こうから姿を現した汽車に

「プオーン」て警笛を鳴らされる

 

ーーー

鉄道マンのA君が死んだ、癌だった

 

最後に会ったのは1年前、町の駅前にある喫茶店

そこで同窓会幹事らで打ち合わせをした

40年ぶりに見たA君はイケメンの面影を残しながらも

ジーサンになっていた

 

学生の頃、バスケット選手でキャーキャー言われていたのを

彼は知ってたのかしら?

鉄道会社に就職し、柄の悪そうな嫁と一緒になったと聞いたけど

やりこめられているんじゃないかしら?

 

打ち合わせでは、言うと同時にほうぼうに電話し

同級生らの了解と予定を抑える行動派、A君ってこうだっけ?

 

みんなでコーヒーとケーキを食べながら

「ここ割り勘な」って笑う可愛らしさ

 

なんだか頼もしい大人に変身したA君に任せておけば

同窓会も盛り上がるねって女友達とヒソヒソ話していたけど

・・・

 

A君は風邪で同窓会を欠席した

 

 

ーーー

 

A君の自宅は駅近くの田んぼの中に建つ一軒家だ

同級生数名でご挨拶に伺った

 

玄関前の空き地に古いバスケットゴールが設置してあり

きっとA君が子供さんらに教えていたんだろうなと思った

 

「入って、入って」ってショーカットの化粧っ気のない

嫁らしき人物が私たちを誘導してくれた

 

台所が見え、そこに小さな子たちやお姉さんお兄さんたちが塊りになっている

どうやらA君のご家族のようだ、ずいぶん多いな・・

 

自宅セレモニーは準備が大変

 

居間も座敷も仏間も縁側も戸をはずし大勢の弔問客が入れるように

セッティングしなければならない

男の力が必要で、家の掃除は女の力が必要だ

みんなで協力しあわないとセレモニーは終わらない

 

お客さんのために遺族は居場所を失われる

 

どこにでもお客さんがたむろっているので

遺族はひそひそ話もできないし、食事も摂りづらい

 

そんな体力もメンタルもやられる自宅セレモニーを

選んだのは嫁の想いかと察する

 

 

仏間にA君がいた

血の気のないイケメンジーサン、死んだって本当だったんだね

 

 

 

頭のかたわらにクッションが供えてある

良く見るとA君を囲む家族写真がプリントされていた

 

嫁が言う「それね、病室でみんなで撮ったの

父の日に孫たちがプレゼントしてくれたの」

そうか、良い写真だ、A君笑顔だ、酸素マスクしてるけど

 

周りを見渡すとA君の名前の賞状がいくつも飾ってある

良いな、いろいろ功績残せて・・

 

そして遺影は笑顔の車掌姿

嫁が持つA君の印象なんだろうね

 

それにしても次々と弔問客がやって来る

人柄だね、A君

茶店のマスターもいる

 

遠くから汽車の警笛が聞こえる

 

嫁が言う「通ると合図してくれるの」

 

A君は鉄道マンとして仕事を全うしたらしい

式に参列できない同僚後輩たちのA君への哀悼か

 

 

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