50年ぶりに食すシタダミ
遠い昔
夏休み
プールという言葉さえ知らない田舎っぺ
毎日、自宅近くの海で泳いだ
崖の下に岩場があり、それをまたぎながら
海に飛び込む
海は深く背が立たない
とんがった岩が海底にいくつもあり
けっこう危険
息を止めて
潜って遊ぶ
海中で見る藻の群れは不気味で
得体の知れない何かがいるようで
藻の群れにはけっして近づかなかった
はるかかなたには島があり
波は穏やかだ
運が良ければ海底にいるウニやサザエを捕まえる事ができる
同級生のS治がオコゼに足裏を刺されて
悲鳴をあげる
姉がスイカを抱えるように、石を持ち
崖から一気に海に飛び降りてくる
深く潜るためだ
いまならえらいこっちゃ
怪我するよ
母ちゃんが浜から青りんごを海に放り投げる
村には青りんご栽培している農家があって
青りんごは安値で買う事ができた
海面にプカプカ浮かぶ青りんごを私たちは頬張る
岩場にはシタダミがたくさんへばりついていた
サザエの赤ちゃんみたいな貝で
これはさっと湯がけば食べることができるが
子供にはたいして美味しいものではなく
もっぱら捕る事だけに夢中になる
やたらクラゲに刺されるようになると
夏も終わりだ
慌てて夏休みの宿題に取りかかる
海は時代とともに変化して
崖も岩場もなくなり、海で獲物を捕る子はいなくなった
監視員のいる町のプールに通うようになった
愛犬と散歩中
ふと気が変わり
村の中偵察コースから海岸沿いコースに
変更した
海岸は道路と並行していてけっこう車が往来する
愛犬を抱きかかえながら海を覗いて見る
懐かしい!
シタダミ発見
(岩の上の黒い粒)
50年ぶり!
元気だった?
いま行くよ
心が躍る
愛犬が邪魔だ
シタダミを捕る間
村のゴミ箱に入れとこうか
いやいや、大騒ぎになる
いったん、自宅に戻り、犬を置いて
それからビニール袋と携帯を手に
海岸沿いに戻った
岩場は凹凸がひどく
海水で濡れていたりして
こけないように用心して歩く
岩の上にいる奴より
海面下にいる奴の方がでかい
しゃがんで手を伸ばす
でっ腹が邪魔して思うほどかがめないのに
笑った
シタダミは目があるのか
気配を察するのか
微妙な速度で逃げていく
親指に満たないくらいに小さい
本日の収穫
明日から場所を変えてもっと大きいのを
探してみよう
帰宅してさっそく湯がいてみる
我が家では
待ち針を差して身を取り出す
苦味若干あり
磯の香を味わう
酢味噌和えにしたら
酒のつまみになる