楽ありゃ苦もあり
母ちゃんは月に3日、外泊する。
一年前からの恒例行事なので段取りは決まっている。
朝10時に車椅子ごと乗れるタクシーで帰宅する。4000円かかる。
私は玄関に上がるためのスロープを施設から借りてくる。
スロープの持ち運びは重くて苦。
タクシーの運転手さんは慣れているので玄関にたてかけたスロープを使い母ちゃんを茶の間に運んでくれる。これは楽。
近くに住む姉が3日間日中手伝いに来てくれる。これは楽。
ベッドに母ちゃんを上げ明るい色のパジャマに着替えさせる。
老いてやつれた母ちゃんはとても細いので袖を通す時は慎重に行う。
姉は、母ちゃんの昼飯を食べさせてくれたり、話相手をしたり。
その間、私は別室で休憩する。夜、朝のケアがあるから。
母ちゃんの食事は施設ではミキサー食だが、家では食べたがるものを準備する。蘇生、延命を私たちは望んでいない。
楽しく過ごしてくれれば良い。
必要摂取カロリーは1400キロカロリー。小食で偏食する母ちゃんが食べそうなものを準備する。施設では食べさせてもらえないものだ。
お粥は好きでないのであまり食べない。摂取カロリーをあげるため
ハイカロリ食品を買っている。月に5000円かかる。
これは味が良いのか食べるし飲んでくれる。
食事は7時、12時、18時。
脱水、膀胱炎にならないようおしっこの色を見て、とろみ茶をすすめる。
母ちゃんは嚥下障害があると施設では診断されている。よく喋り、言語障害もなく、咳き込みがない母ちゃんにミキサー食は合っていないと私は思っている。
母ちゃんはハチメの煮つけが大好きだ。
自分で箸をもち食べる、汁をうまいと言って飲み干す。
美味しい、うまいと言ってくれると楽。
母ちゃんは自分中心のタイプ。姉と私が話し込んでいると面白くないらしい。
枕投げ、命中率は高い。
母ちゃんが元気だと私は嬉しい。
大ちゃんも嬉しそうにベッドに上げる。
大ちゃんは加減を知らないから
退去を命じられる。
オムツ交換は11時、14時、17時時、20時、6時。
時々、寝返りをさせる。
母ちゃんは傍に家族がいないと呼びつける。
そして絶え間なく喋り続ける。これはちょっと苦。
夕食後、母ちゃんの話相手をしているといい加減疲れてくる。苦だ。
傍で寝ると呼んで起こされるのがつらい、苦だ。
最近は施設に事情を話して睡眠薬を外泊時だけ処方してもらっている。
母ちゃんは外泊一日目はなかなか寝ない。
枕や布団を投げる。
温度調整のため布団のあつさを調整したり、エアコンの温度を調整する。
寝入ったら、今度は布団で口や鼻がふさがれていないかチェックしている。
朝は6時に起床し顔をふいたり、汗で湿っている体を拭き、肌着、パジャマを交換する。
朝食を済ませると、お待ちかね姉が来てくれる。
庭を眺めている母ちゃん
母ちゃんの姉妹も恒例行事に付き合い、一時間ほど話して帰る。
3日目、昼飯後は施設にもどる準備をする。
靴をはかせ、車椅子に移し、タクシーを呼ぶ。
母ちゃんは気配を察し、顔をゆがめる。
ベッドにもどせと何回も言う。苦。
タクシーを待つ間は外へ出て景色を眺めさせる。
母ちゃん、ごめん、また、今度ね。