骨董屋さんがお買い上げしたのは、こ汚ねぇ鉄瓶だった
我が家には蔵がある
遠い昔、田舎では葬式も結婚式も
自宅で行った(らしい)
儀式に必要な道具一式を
収納するために蔵があった
我が家の蔵の一階には
客用の座布団が50枚、
後は使わなくなった農機具とか
ガラス戸、火鉢などが
雑多に置かれている
我が家は整理整頓という知識がない
仮に盗まれても
気にならない品物ばかりだ
退職後、初めて二階に上がってみた
我が家には清掃という知識がない
ほこりまみれだ
喘息のある人は発作をおこすと思う
窓は一つだけ
電気もない
歩くと床がギシギシと鳴る
大小の木箱が並んでいる
ワクワクしながら、木箱を開けて見る
朱色の御前が収まっていた
母ちゃんが嫁いできた時にでも
使ったのだろうか
別の木箱も開けて見る
朱色の御前だ
なんだ御前ばっかり
棺桶みたいのも3箱ある
中は空だった
ぐいのみが多数、ザルに積み上げてある
ザルには、ビニールがかけられていた
我が家には、物を大切にという知識がない
小さい木箱を開けて見る
金ぴかの小鉢が入っていた
レンジでチンできない代物だ
昔の茶碗はやたら金ぴかの装飾が多い
隣町にある骨董屋に御前を見てもらおう
それで買ってもらえれば
我が家の生活の足しになる
私は御前一人前を蔵から出した
ほこりだらけ
亡母を恨む、品質管理に無頓着だった
茶碗と蓋を組み合わせてみる
合致しているのかさえ
分からない
洗って良い物なのか?
塗り物かもしれないし
タオルでそっと拭いて
風呂敷に包んだ
どこかで聞いた事がある
鉄瓶売れるらしいよって
古いサイドボードに中に
錆びた鉄瓶が入っている
いろりがあった頃に
湯を沸かしていた鉄瓶
こんなの誰も使わないよなぁ
と思いつつ、ビニール袋に入れた
出かける前に骨董屋に電話してアポを
とる
途中、ドコモに寄って
アップデートのやり方を聞いていたら
対応した若い男子の態度が悪くて
頭に血がのぼった
かっついて店から出たら
迷子になって、道を行ったり来たりしながら
あの小僧どうやってこらしめてやろう
社長に電話してやるか・・!
約束の時間に遅れたけど
骨董屋の若社長は愛想良く
御前を見てくれた
「輪島塗だね、これは今じゃ売れない
いっぱあいあるからね」
ザンネン
「汚れているのはどうすればいいんですか?」
「洗って拭けば良いよ」
「洗って良いんですか!」
「それは?、それ見せて」
若社長が指さす先には、私が隠すように
持参した鉄瓶
錆びて汚い鉄瓶を、オズオズと差し出す
「〇〇の作だ、ほら名前刻んであるだろ」
若社長は蓋の裏を指さす
へー、ソウデスカ
「飾りは京都でつけたね」
蓋の表のぼんぼり飾りのことらしい
ソレトレソウデスネ、ブラブラシテ
「売れるよ」
「えっ、売れる?、買ってくれる?」
「いいよ、はい5千円」
このやり取りを後ろで聞いていた
社長が私の電話番号を聞いとけと
若社長に行っている
なんだかザワザワし始める
「今度、ご自宅に伺っても良いですか?」
いいけど、何もないよ、御前以外は
遠くまで来たかいがあった
5千円ゲットした
しかしあの汚い鉄瓶に値打ちがあったとは・・
磨いてきた御前はガラクタで
きっと、粋で知性のある金持ちが
あの鉄瓶を愛でるんだろう
鉄釜の愛好者はいないだろうか
確か蔵に転がってたような
じゃ、明日も蔵を探検しよ