さようなら、うちは貧乏になったのよ
部屋を開けると、飛び跳ねながら茶の間に走る愛犬。
その姿を後から追い、思う。
(可哀想に、うちは貧乏になったのよ)
二日がかりで、家計簿をまとめた。
退職した4月から、母ちゃんが死んだ12月までの9か月分。
一日目にだいたいの数字が出た。
驚いて、その日は寝た。
現実逃避。
(頭の調子が良いときに、もう一度確認しよう)
二日目、やっぱり高額な数字がでた。
4月
健康保険任意継続料43万円。(これは仕方がない)
固定資産税約10万円(これも払わなければ)
部屋の畳替え約5万円(腐ってたから、仕方がない)
遺影写真に2万円
愛犬と一緒の写真も欲しかった。
ショッピングモールの中にあるカメラ屋さんに電話する。
「もしもし、遺影写真とりたいんですけど・・」
「はっ?イエイ?」男性の声だ。
「はい、遺影です。それと犬と一緒の写真もお願いしたいんですけど」
「イヌ?、駄目ですよ、ここ動物禁止です」
「そこを何とかお願い」
「仕方がない、外で撮る事になるけど、それでもいいですか?」
「ありがとう、今から行きます」
電話をきったあと、久々に化粧をすることにした。
もとから化粧しないので、化粧のやり方が分からない。
化粧水をつけ、下地クリームを塗る。
何年前からあるのか分からないファンデーションを塗る。
馬鹿殿にならないよう首も塗る。
眉を描きたいのだが、どんな形にするか迷う。
若い時は、眉同士がつながる程、濃かった。
今では、元気のない薄くて短い眉になった。
しかも左右の形が微妙に違っている。
手元が震える。
眉は人物の印象を変える程のパワーがある。
左右対称に描くのは、非常に難しい。
いつの時代のものか分からない、アイシャドウを塗る。
なにを目的にシャドウを塗るのかさえ分からない。
作業に成功したか不明だがスーツに着替え
愛犬をキャリーバックに入れ、ショッピングモールに行った。
入口付近のカメラ屋さん。愛犬は車の中で待機だ。
お爺さん店長が出迎えてくれた。
立ち姿と椅子に座ったのを撮ってもらう。
「イヌはどこにいるの?、連れてきて良いよ」
愛犬を見せるとお爺さん店長が笑う。
「小さいね」
いよいよ、撮影が始まる。
私は椅子に座り、暴れる愛犬をおさえつける。
店員さんや店長が愛犬に手を振ったり、おもちゃを見せて
気をひいてくれた。
写真撮影は無事に終わった。
後日、写真を取りにカメラ屋さんに行った。
お爺さん店長は、気を利かせて、私の顔のシワを修正してあった。
不自然な顔。
堀ちえみを太らせた感じ。
私の葬式に来た人が「誰、これ?」って。
来年も遺影写真とらないと。
5月
ニトリでソファ等購入約20万円
将来的に和室で座る様式は膝に負担がくる。洋式に移行するため
仕方がない。ただ、ソファの選択を間違えた。寝心地の良さだけで
決めたが、汚れがついたらアウトの綿カバー。色は白。
しかも、三人掛け一つ。
これ、おかしい、客と並んで話すのか?
慌てて、もう一つソファを買いに行く。
今度は、汚れがついても拭き取れる合皮性に決めていた。
そして、ソファの決めては座り心地だ。
フィット感が合わないソファは、地獄だ。
高さは、頭がもたれかかれるくらいのが良い。
座ってみたり、寝てみたり、どれもこれも
しっくりとこない。
(なら、やめとけば良かった)
やっと見つけた二人掛け合皮性ソファ、色は茶色。
店員さんにカタログを見せてもらったが
茶色しか気にいる色はなかった。
色違い、材質違いのソファが二つ。
トータル感なし。
馬鹿やろうです。
(白い方は、茶色のカバーかけよう・・)
テーブルは高低が調節できるところが気にいって買ったが
低くしても高さ53㎝。
ソファより、高くて使いずらいと、評判悪い。
ニトリは楽しい、素敵なクッションカバーがある。
ついでに色々買った。ソファにクッションは欠かせないからね。
固定電話、インターホンを買い変え、自室にいても
対応できるようにした。約6万円。
自動車税が4万5千円(田舎暮らしだから車がないと生活できない)
6月
県民税14万5千円(これも仕方がない)
退職記念に親戚と行った温泉。
祝われる本人が、全額支払う、うちは代々そんな習慣。
これからも、よろしく的な意味がある。
およそ、45万円。楽しかった!
誰からも褒められる事のない、さえない人間だったが
犯罪に走る事もなく、人並みに定年という節目を迎えられ
とてもホッとした。
(好きな仕事ではなかった。自分には向いていないと思っている。
稼ぐためだけに働いた、割り切って・・・。)
今からでも間に合うかな、好きな事見つけるの・・。
7月
まだ、茶の間のインテリアにこだわり続けている。
今度は、サイドボードだ。色は茶色、高さ85㎝が欲しい。
「在庫処分」の張り紙をでかでかとウインドウに貼って
ある家具屋に、好みの物件を発見する。
ちかじか、閉店する店だ。
「これ、幾らします?」
「これは、良い物で、20万円の値打ちあります」
昔は美しい方だったと思えるおばちゃんが笑顔で答える。
「いくらまけてくれますか?」
(どうせ、売れないでしょ)
「値引きできません。」
(売れない家具置いててもしかたないよ)
その店には、その後2回足を運んだがまけてくれなかった。
別の店でサイドボード買った、5万7千円。
亡き父ちゃんが掛けていたのを引き継いだ形で
年10万円の支払いをしていた火災保険。
30年契約が終了した。
この火災保険は、ほぼ全額がかえってくる。
(続けて良かったよ)
多額の金が手に入ると、人って気が大きくなる。
また、同じ保険会社と火災保険契約した。
今度は10年分、88万円収めた。
―――3か月で230万円使ったーーーー
パソコンで入力していたアバウトな家計簿。
通帳と帳尻が合わない点がボチボチあり。
金の出どころは一本にした方が良いみたい。
何時、何に、幾ら使ったか、詳細に記録することが
大事って今頃、わかった。
私の金使いの適当なところが、その後も続く。
ーーーー
今日は、後輩から化粧水とナイトクリームを買った。約5万円。
さよなら、もう買えない。
昼からいつもの美容院に行った。
アロマのいい香りがするトリートメント1本5千円購入。
もう、手がでない、今回で最後。
今、台所でいたずらしている愛犬、私達貧乏になったよ。
今後はシマムラ、マツモトキヨシに通うことにするよ。
肉は今晩で最後かもよ。